東京や大阪の都心にある百貨店と比較して「厳しい経営状態にある」といわれる地方の百貨店。
そこで今回は九州・中国・四国地方における2024年百貨店売上の前年比推移を見ていきたいと思います。
元気な地方百貨店の代表格といわれることもある熊本・鶴屋百貨店。1階ではくまモンが来店客を迎えてくれる。
九州・中国・四国地方の百貨店が調査対象
調査対象としたのは2025年時点で日本百貨店協会に加盟する九州・中国・四国地方の百貨店各社。
個店ごとの売り上げを発表していない企業も多く、ストアーズ社、東洋経済新報社、日経新聞、各県の地方紙・ブロック紙などを参照して作成しています。(各社の発表により一部年度値・年値など混在アリ)
なお一口に「百貨店」といえども、各店の売り上げは岩田屋本店の990億円から佐世保玉屋の約9億円まで大きな「格差」があります。
中国・四国・九州・沖縄の百貨店2024年売上前年比。
福岡の百貨店は絶好調!
ここからは調査対象とした各社の売上推移を詳しく見ていきます。
明らかに「絶好調」といえるのが福岡市にある百貨店各社。
福岡都市圏の人口増に加えて九州における福岡一極集中、観光客の増加もあり殆どが2023年比10%以上超え。「過去最高売上」を叩き出したところも少なくありません。
なお「岩田屋本店」に関しては2025年に年商「1000億円超え」が見込まれています。
また、沖縄の「リウボウ」の好調も観光客増加が寄与しているといえそうです。
那覇市国際通りの一等地にあるリウボウ。
このほか、「ロフト」を新規導入した「丸由百貨店(後述)」「トキハ別府店」も売り上げが上昇。熊本の「鶴屋百貨店」は台湾企業の県内進出に伴い台湾人の社員を増やすなどして新たな顧客の取り込みに挑んでいます。
山陰各社も好調!?
一方で、表を見ると「大都市のみ好調という訳ではない」ことが分かります。
特筆すべきは山陰地方の百貨店3社。
3社ともに年商は50億円未満ではあるものの、いずれも売り上げを伸ばしています。
米子の「JU米子高島屋」「米子しんまち天満屋」の2社は島根県に展開していた「一畑百貨店」が2024年1月に閉店したことに伴い松江に小型店を開設。さらに、両店舗ともに近年改装を続けており、駐車場も実質無料となっていることが大きいといえます。
松江市では2024年に一畑百貨店が閉店。
一畑から米子の百貨店に移籍した従業員もいるという。
たとえば「JU米子高島屋」では2022年にマックスバリュを導入するなど米子の2店は百貨店商材を扱いながらも食品売場をスーパー化、さらに100円ショップも導入しているなど、ショッピングセンターのような使い勝手の良い店舗にリニューアルを遂げています。もちろん百貨店商材の充実も図られており、米子高島屋では新たにシャネルも出店しています。
また、鳥取の「丸由百貨店」は「ロフト」を導入。実はこのロフトは米子しんまち天満屋がFC運営しているもので、山陰の百貨店各店は「米子の店舗の努力に支えられている」ともいえるでしょう。
丸由百貨店のロフトは米子天満屋が運営。
山陰の百貨店同士のタッグで店舗の活性化が図られた。
売上が下がった店舗、事情はそれぞれ
一方で売り上げが下がった店舗も少なくありません。
とくに大都市である広島市内の百貨店各店の減少が目立ちます。
備考欄に示したとおり「そごう広島店」のように減床した店舗もあるなど売上減少にはそれぞれ異なった理由があるものの、2025年には新たな広島駅ビル「ミナモア」開業の影響も受けるとみられ、駅ビル完成による都心回帰の動きや観光客の取り組みをうまく図っていくことができるかどうかが今後の課題となってくるでしょう。
そごう広島店は親会社の変更に伴い改装が遅れているとみられ、エントランスにも1年以上「改装中」のパネルが広がっている。
また、調査各社のなかで売り上げが最小となった「佐世保玉屋」は建物の耐震性が確認されておらず、百貨店としての耐震基準の面積を下回る面積で営業を続けることで、当面の耐震補強を回避したい考えだとみられ、現在は1階の一部でサンドイッチや婦人服などを販売するのみとなっています。
実質コンビニほどの面積で営業する佐世保玉屋。
建て替えに挑む店舗も-新時代の百貨店像に期待
売上が下がった店舗で、今後が注目されるのが「佐賀玉屋」。同店は新たな資本を取り込み、2024年8月に建て替えのため本館を閉館。それでも2023年比8割以上の売上を確保しています。
建て替えのため閉店した佐賀玉屋本館。
2025年秋現在、佐賀玉屋は南館と仮設店舗で暫定営業をおこなっており、2026年度中にはシティホテルと合築の新たな建物が完成する予定。
近年地方百貨店の全面建て替えは珍しく、こうした佐賀玉屋の取り組みは佐賀のシンボルとしてのみならず、新たな時代の地方百貨店のモデルとしても期待がかかります。