別府市の百貨店「トキハ別府店」が2010年から5年連続の黒字化を達成したことが分かった。
10万都市、3万㎡でも安定経営-その店舗改革とは?
トキハ別府店は1988年開店。売場面積は約30,000㎡で、同規模の都市(別府市の人口は約12万人)において日本最大の規模。
1998年に隣接する第三セクターのファッションビル(専門店棟)を買収したことにより、10万都市としては過剰な売場面積を抱え、慢性的な赤字体質となっていた。
トキハ別府店。
そこで、抜本的な構造改革のため、2005年から2015年までの10年間以下のような施策を実施した。
- 専門店屋上(12階):臨時ステージ設置(期間限定)、屋上画設置
- 屋上:フットサルコートに合わせ展望デッキを夜間解放、神社改装
- 8階:ゲームコーナー(4階に移設)をフットサルコートに
- 7階:レストラン街を集積、一部を賃貸イベントスペースに
- 6階:子供服売場を廃止、全床を貸オフィスに(リクルートなど)
- 5階:家具・生活用品売場を移動、大型催事場(イベント会場)化
- 4階:高級紳士服売場を圧縮、5階から生活用品売場を移設
- 3階:専門店棟に大型テナント導入(ABCマートなど)
- 2階:直営売場を廃止、大型テナント導入(しまむらなど)
- 1階:スターバックスコーヒー、無印良品など導入、催事を増加
- 地階:生鮮売場は子会社のスーパーに、土産品・贈答銘菓を充実
- シースルーエレベータ設置、7階~屋上の営業時間延長
- 不採算売場の廃止(本店から取寄対応、本店在庫は翌日に届く)
- 元店員が独立した子供服セレクト店を導入(テナント化)
- 本店などとともに無料ポイントカードを導入
- 外国人観光客への対応強化、外国人店員導入
- 対面販売売場のレジ統合・集約、運営の効率化など
ファストファッション、紳士服店、100均…客層拡大に奔走
トキハ別府店では、従来は百貨店に来なかった客の取り込みのために、専門店の強化をおこなったことも大きな特徴だ。
百貨店棟には「無印良品」、「スターバックスコーヒー」、「紳士服のフタタ」(2015年秋~)、フットサルコートなどを、専門店棟には「100円ショップSeria」、「アベイル」、「Rigit-on」、「ABCマート」、「手芸のいとや」などを導入。百貨店らしい売場も維持しつつも、一部を幅広い世代を対象とした店舗への改装を行うことにより、これまで百貨店にはあまり足を運ばなかった世代まで客層を広げることに成功した。
また、来店機会を増やすために、生鮮食品売場はトキハ系のスーパーマーケットに転換することで取扱い品目を拡大、デイリーユースの取り込みも図った。
人気の銘店、土産品についてはこれまで通り百貨店による販売を行っているが、銘店売場などにおいても個店ブースごとの販売員配置を廃止。準集中レジを導入し、百貨店らしい品揃えを損なうことなく売場の効率化が図られた。
「ファッションセンターしまむら」は当店が百貨店初出店(2012年)。
しまむらはその後も百貨店やファッションビルへの出店を進めている。
屋上ゲームコーナーは4階に移設され、屋上はフットサルコートに。
不採算売場は社員が独立して専門店化!
百貨店の買回り品売場のうち、不採算であった大型家具売場、家電売場、玩具売場などは廃止されたが、多くの売場は規模縮小の上で存続。廃止された売場の商品は、催事などで期間限定販売を行っているほか、トキハ本店からの取り寄せ販売も行っている。
また、少子化で売上が減少していた子供服・ベビー服に関しては、元店員が独立して運営する形で「セレクトショップ」を入居させるという方式を取っているのも珍しい。
1階はシャネル、資生堂など百貨店らしい売場。
この上がファストファッションとは思えない。
大手百貨店並に豊富な銘菓。品揃え維持しつつ人員削減。
このように、高級百貨店専業から大きく舵を切ったことで、最盛期に200億円近くあった年商は100億円を割り込んだが、売場整理と日常需要の開拓で、経営は安定するようになった。
更に、不採算売場をテナント化したことで、季節を問わず安定した家賃収入が入るようになったことも、経営の安定化に繋がった。
百貨店らしい内装も維持されている。
「百貨店ならではの催事」を増加、入店しやすい店舗に
また、「百貨店ならでは」といえる集客力のある全国物産展は主に1階の吹き抜け「センターモール」で開催することにより、駅前通り商店街の通行客の入店機会を増やしたほか、お中元・お歳暮の時期でも物産展が実施できるようになった(ギフトコーナーは従来の催事場で実施)。
センターモール前の駅前通りには「センタープラザ」という広場があり、物産展や催事によってはそこにおいてもイベントを実施することで通行客の目を引き、入店機会を増やしている。
このセンタープラザは、店舗独自の催事のみならず、地域の祭りやイベントなどにも幅広く貸し出されており、トキハ・商店街の相互間の集客に大きく貢献している。
1階の吹抜「センターモール」。
ここでの催事実施により入店機会を増やす。
駅前通り商店街に面したセンタープラザも活用。
徒歩圏に多数の競合店、回遊性の創出がカギに
トキハ別府店の徒歩圏内には総合スーパー「ゆめタウン別府」(約21,000㎡)、駅ビル施設「別府ステーションセンター」(全館合計で約12,000㎡、ヤマダ電機とマルミヤストアが核)、食品スーパー「マルショク流川通り店」(建替えで2016年再出店)があり、商業集積は大きい。店舗の魅力を増せば、各店舗の買い回りによる回遊需要が大きく見込めるなどといった利点も大きい反面、競争も激しい地区であると言える。
もちろん、電車で僅か10数分の距離である大分駅周辺の商業施設も大きな競争相手である。
近接するトキハとゆめタウン。
トキハ別府店は、今後も物産展や大型文化催事の充実を行い、入店客の増加を図るほか、増加している外国人観光客への対応を強化させることにより、安定した黒字経営を維持していく方針だ。
催事場を増やしたことで大型イベントが実施できるようになった。
これからも百貨店らしい全国物産展や、地域の祭り実施時の合同イベントはもちろん、2015年の夏には、アートイベント・現代芸術祭「わくわく混浴デパートメント」と、子供向けイベント「からくり忍者ランド~わくわく修行の巻~」、動物ふれあいイベント「ふれあいねこ展」を実施する。
2015年の年商は約55億円を見込んでいるという。
外部リンク:トキハ別府店
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