大分県別府市のJR別府駅近くにある「別府市公会堂」(別府中央公民館)が約1年半の復原リニューアルを終え、3月7日に公開された。
別府市公会堂(別府中央公民館)。
90年前の輝きを取り戻した公会堂
「別府市公会堂」は1928年3月に竣工。
石炭王であった麻生太吉(麻生太郎元総理の曽祖父)の別荘跡地に建設されたもので、設計は「東京中央郵便局」(KITTE)や「大阪中央郵便局」などで知られる吉田鉄郎。ストックホルム市庁舎をモチーフにした3階建ての館内には、ステンドグラスや天使の像が配置され、建築的価値が高い建物として「docomomo 日本におけるモダン・ムーブメント建築」にも選定されているほか、別府市指定有形文化財にも指定されている。
正面から。スクラッチタイルが美しい。
現在、別府市公会堂には「別府中央公民館」と「別府市民会館」が入居。別府駅西口から徒歩5分ほどと交通の便も良く、各種イベントや市民講座、講演会、高校の文化祭などが開催されていたが、1945年ごろに塗られた戦時迷彩のコールタールは剥がすことができず、21世紀になっても汚れとなって残っていたほか、1968年のバリアフリー改修により正面ファザードは大きく姿を変えていた。
復原された正面エントランス。
公会堂は1990年代にも復原が計画されたことがあるものの、バブル崩壊による景気の後退に加え、阪神淡路大震災による建築費の高騰、市長の交代などから着工には至らず、近年は老朽化によるタイルや窓枠の欠落も見られるようになっていた。
そこで、別府市は2014年から1年半をかけて別府中央公民館の復原工事を実施、合わせて耐震補強・エレベータ設置などを行っていた。
3階テラスより。
大分を代表する近代建築に-設計図を基に忠実に復原
復原に際しては、別府市は近年大きな災害や戦災にも遭っておらず、ほとんどの設計資料がそのまま保管されていたため、タイルから灯具の形状に至るまで忠実に復原することが可能であったという。
館内には星のモチーフが多く取り入れられている。
シンボルのステンドグラスと星形の灯具(3階)。
2階通路には天使像が。
場所によって異なる灯具にもこだわりが見られる。
公会堂中央部の約500席ある大ホールは九州初のバルコニー型観覧席(3階)を備えており、当時の雰囲気を損なうことなく、今後もコンサートなどが開催できるように近代化工事を行った。3階観覧席の一部には、竣工当時の座席が残されている。
近代的な大ホールだが、基本的な造りは竣工当時の設計のまま。
3階観覧席の奥には木造の椅子が保存されている。
1階にはメモリアルコーナーが。
年表や設計図、竣工当時の写真、機械部品などが展示されている。
「別府市公会堂」のフォントは設計図の文字を転写したもの。
かつて屋上に設置されていた空襲警報のサイレン。
現在は公会堂前広場の木の下に置かれている。
3月7日は 14時から復原竣工記念セレモニーが執り行われ、15時半からは市民見学会が開催された。市民見学会では、復原工事の際に取り外された古いスクラッチタイルが記念品として無料配布された。
なお、復原に合わせる形で正式名称も「別府市中央公民館」から「別府市公会堂」に戻されている。「別府市中央公民館」と「別府市民会館」は今後も公会堂の館内に入居する。
7日には市民見学会が開催された。
配布されたスクラッチタイル。
向かいのオフィスビルも公会堂に合わせたモチーフ。
市民に親しまれていることが分かる。
別府市公会堂(中央公民館・市民会館)
別府市上田の湯町6-37
開館時間:9:00~22:00。
見学無料。年末年始以外は無休。
別府にもう1つ残る吉田鉄郎建築
戦災に遭っていないため、古い建物が数多く残る別府市。
中心市街地には、別府市公会堂以外にも吉田鉄郎が設計した建築物として「旧逓信省別府電報電話局電話分室」(旧電電公社別府電話局)が残されている。
こちらの竣工も別府市公会堂と同じく1928年。
現在は「別府市南部児童館」(レンガホール)として使われており、往時のままの美しい外観を見せている。公会堂見学の際には、合わせて立ち寄ってみてはどうだろうか。
別府市南部児童館。
外部リンク:別府市中央公民館
外部リンク:別府市中央公民館の復元に向けて(PDF)